Project Story 02

リチウムイオン電池に使う
バインダーの重要性を
顧客にアピールせよ!

新規事業の創出のためには
お客様や社内の人たち
の意識改革が必要だ。
薮内庸介

エナジー材料事業部 エナジー材料販売部長
千葉大学大学院 自然科学研究科 物質工学専攻

吉野彰氏たちがノーベル化学賞を受賞したことでも話題になったリチウムイオン二次電池(以下LIB)であるが、今では、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどのモバイルツールや、電気自動車・ハイブリッドカーなどにも搭載され、私たちの身近な場所で広く使われるようになった。

当社では、1995年からLIBに使われるバインダーと呼ばれる材料を製造・販売している。LIB一つあたりに使用されるバインダーの量は決して多くないが、バインダーが無くてはLIBを製造できない非常に重要な部材の一つである。また、LIBの性能にも大きな影響を及ぼすため、近年では大きな注目を集めている。

当初は、事業の継続も
危ぶまれていた。

事業を始めた当初は、LIBで使われているバインダーは、正極あるいは負極において電気を溜める役割をする活物質などを金属箔に接着するための接着剤としか認識されていなかった。
「当社がバインダーを製造・販売した時期は、まだLIBが市場に上市されたばかりのころで、市場規模は今の数十分の一程度でした。当時は誰もLIBが現在のように普及して、大きな市場を持つようになるとは想定していませんでした。しかも、LIBメーカーは、バインダーを単なる接着剤程度としてしか考えておらず、当社の社内でも『市場規模は極めて小さく、成長性にも疑問があるから、事業を継続すべきかを判断しなければならない』と言われたとのことでした」

バインダーの重要性をプレゼンして、
お客様の意識を変える。

しかし、バインダーの提案を顧客に進めていくうちに、「バインダーは単なる接着剤ではなく、電池内で重要な役割を果たしている」という点を訴求することが重要であることと考え始めた。
「市場に出始めた頃のLIBは、長期間使っている(充電・放電を繰り返している)と膨らんでしまったり、すぐに充電がきれてしまったりしていました。しかし、バインダーは電極の膨らみを抑制する機能や、電池内の界面反応の制御をすることで電池の長寿命化に貢献することがわかってきました。しかし、LIBメーカーやLIBを使う企業の当時の認識は、バインダーは電池の性能を左右する重要な材料の一つだと考えられてはいませんでした。そこで、バインダーの重要性をアピールし、当社のバインダーを使う価値を高める活動が必要ではないかと考えるようになっていきました」

そこで、お客様の意識を変えることからスタートした。しかし、それは予想をはるかに上回る大変なことであった。
「当社と取り引きが無い企業では、会ってもらうためのアポイントメントを取ることさえ難しいのが現実でした。たとえアポイントが取れたとしても、『10分しか時間を取れないよ』と言われるなど、十分な時間を取っていただけないことも多く、ひどい場合にはアポイントをキャンセルされて会えないことさえあったのです」

キーマンを探し、時にはお客様の
一歩先を行く提案も行った。

お客様となかなか会えない日々が続いても、開発チームはあきらめることなく、行動を続けていった。研究者もまた、「やりたい」を大切にする風土を土台として、プロトタイプのサンプルを積極的に市場に出し、当社のバインダーを使っていただいているお客様に、バインダーの重要性を少しずつ浸透させていった。
「当社と取り引きが無かった会社の人たちに話を聞いてもらうために、まず取り組んだのが材料選定の決定者が誰かを、会ってくれた担当者から探っていきました。時には、飲みニケーションをしながら、担当者との信頼関係を深めていき、上司に『面白い材料があるんですけど』と言ってもらえるような関係を作っていきました」
「また、当社が材料メーカーの中の“ one of them “ではなく、ゼオンがお客様にとって重要な存在であると認識してもらうためには、LIBメーカーと同じ土俵で話ができるようになる必要があります。材料メーカーである当社は、材料を作れればいいのですが、お客様のデバイスを評価するためには、私たちもLIBを作って評価する必要があると考え、材料メーカーの範疇を超えて、社内に電池の施策、評価設備を充実させてきました。」

このように粘り強くお客様を訪問する日々を積み重ねていく中で、お客様と同じ目線で議論を繰り返し、時にはお客様の一歩先を行った提案をすることで、ゼオンで製造・販売しているバインダーの重要性をアピールしていった。また、お客様の社内でゼオンによる技術セミナーを実施し、ゼオンが単に材料を売るだけで無く、お客様と一緒により良いLIBを作り上げている重要なパートナーであることを少しずつ認知させていった。

社内の意識も変えていった。

意識を変えていったのは、お客様だけではなかった。プロジェクトに関わる社内の人たちの意識までも変えていった。

開発当初は、社内でも認知度が低く、工場に試作品を作ってもらうように依頼しても、なかなか試作の枠を取ることも難しかったこともあったと籔内は当時を振り返る。
「事業規模が少しずつ大きくなり、さらに工場などにもアピールを続けたことで、社内で多くの方が協力していただけるようになりました。社内の人の協力体制も整えられたことで、当時に比べると仕事がずいぶんやりやすくなりましたよ」

「当社には様々なコア技術がありますから、その中にはLIBの高機能化に役立つ技術もきっとあるはずです。そうしたコア技術を活用するためには、社内のいろいろな部署の人と人脈を作っていくことが大切です。ゼオンには、困った時に相談すれば応えてくれる人がたくさんいますから、お客様との関係を広げたり、深めたりするのと同じくらい、社内の人たちとの関係作りや意識改革も重要なんです。社内には様々な技術・研究シーズがありますから、お客様や市場の真のニーズを聞いて、そのマッチングをして提案することも、私たち営業部門の仕事だと思っています」

自動車用にも力を入れていく。

LIBの今後の中心的な用途が電気自動車になるのは明らかである。アメリカのカリフォルニア州知事は「2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する」というコメントを出した。自動車の大きな市場である中国でも、国策として電気自動車の販売に力を入れている。さらに欧州でも電気自動車の市場が拡大すると予想されている。
「電気自動車用のLIBは高い耐久性、急速充放電性能や、高い安全性等さらに要求が厳しくなると考えています。そういった特性の向上に貢献するバインダーの開発にチャレンジしていきたいと考えています。この他にも、再生エネルギー発電のバックアップ用電池など、新たな用途も予想され、これからも新しいバインダーの提案に力を入れていきます。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、LIBがここまで普及してきたのも、当社のバインダーがあったから……と思いたいですね」
LIB用バインダーは、現在当社の大きな柱の一つに成長した。そして、これからさらに大きく飛躍していくことを期待したい。

学生の皆さんへ

どんなにいい商品を開発しても、それをお客様に認知してもらわなければ、採用に結び付きません。だからこそ、私たち営業が重要な役割を担っているのです。

電池材料事業は厳しい局面も多く、大変なこともありますが、常に明るく、どんな状況でも前向きに進めていける人がいたからこそ、ここまで事業が継続し、成長できたと感じています。学生の皆さんも、ぜひ自分の持てる力を発揮して、未分野でもどんどんチャレンジして欲しいと思います。そういう人が活躍できる風土がゼオンにはありますから。

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