





Project Story
研究&生産技術
~新たな高機能樹脂を生み出せ!~

世界初となる触媒の発見から
はじまった
シクロオレフィン
ポリマーの2大プロジェクト
ある触媒の発見をきっかけに、耐熱ポリマーに関する2つの開発プロジェクトを行ってきた日本ゼオン。部門を超えて知識と技術を結集させ、チーム力で社会を動かす製品を生み出したストーリーに迫ります。
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基礎研究担当
S.H. 2000年度入社
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スケールアップ担当
K.M. 2005年度入社
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スケールアップ担当
A.T. 2006年度入社
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ポリマー設計担当
A.F. 2006年度入社
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配合設計担当
A.N. 2008年度入社

Chapter 01
世界初となる未知の技術
立体規則性を制御できる
金属錯体触媒を発見
ミレニアムイヤーである2000年。日本ゼオンに入社したS.H.は、ひとつの基礎研究を任されることになる。それが、シクロオレフィンポリマーの耐熱設計に関する研究だ。当時、シクロオレフィンポリマーの製造には、1960年代に発見されたZiegler型の古典触媒を用い開環メタセシス重合を行っていた。だが、古典触媒がゆえに配位子設計はできておらず、精密な重合制御は不可能。主鎖のタクティシティーの制御はまったくできず、アタクチックポリマーのみに限定されていたのだ。そのため、シクロオレフィンポリマーの立体規則性を思うままに制御することは、この材料の潜在的な特性を引き出すうえで極めて重要な課題。この課題解決のキーポイントは、ノルボルネン類モノマーの重合を制御する金属錯体触媒の発見だが、2000年の時点では世界的にもまったく未知の技術だったという。
ひとりで黙々と研究に取り組んでは失敗する日々。それを繰り返してから4年の年月が経ったある日、はじめて狙い通りの分析結果を手にする。世界ではじめて立体規則性開環メタセシス重合に成功したにも関わらず、「うれしいというよりも、これでようやく次に進めると安堵した気持ちの方が大きかった」とS.H.は当時を振り返る。
Chapter 02
クライアント向けの
耐熱ポリマーを開発する
プロジェクトが成功
それからさらに6年が過ぎた2010年。S.H.が発見した金属錯体触媒を活用し、あるクライアント向けに耐熱ポリマーを開発することが急きょ決まる。S.H.の発見がきっかけで、耐熱シクロオレフィンポリマーの開発が可能となり、ひとつのプロジェクトが動き出したのだ。そこに参加したのが、ラボからプラント規模へのスケールアップを担当した K.M.とA.T.。主として重合工程をA.T.が担当し、水添工程をK.M.が担当した。ひとりで研究を続けてきたS.H.は、あらためてさまざまな知識・技術を持った専門家が揃う日本ゼオンの底力を感じ、世界初のものを生み出していける日本ゼオンのプロジェクトならではの醍醐味を知ったという。「ひとりで実験室で結果を出したときよりも、製造が成功し、実験室で作るのと同じポリマーが大量に出来たのを仲間たちと目の当たりにしたこと。あれこそまさに研究人生の至宝でした」とS.H.は語る。また、このプロジェクトを通してプラントを丸ごとひとつ建設したK.M.は、「貴重な経験を積んだことが、その後のキャリア形成に役立った」という。
プロジェクトはもちろん順調に進んだわけではない。従来のシクロオレフィンポリマー重合法から変更したことで社内の意見が衝突することも。「なかなかうまくいかない中、チーム内での助け合いだけでなく、『A.T.がやりたいようにやれ』と味方してくれる存在もいて、おかげで諦めず進めることができた」とA.T.。チームの力、社内の力が製品の開発を成功へと導いたのだ。


Chapter 03
第二のプロジェクトで
より質の高い製品を実現!
今後の展開にも期待大
S.H.の発見はもうひとつのプロジェクトのきっかけにもなる。それが2013年からはじまった車載カメラやセキュリティカメラレンズ用の高耐熱シクロオレフィンポリマーの開発だ。これまで、車載カメラやセキュリティカメラレンズには主にガラスが使われていたが、価格が高くなってしまうのが問題だった。そのため、耐熱性があり黄変しないポリマーの設計がクライアントからも求められていたという。長年複数の人間がさまざまな方法を試みてきたがうまくいかず頓挫していたところ、S.H.が発見した触媒のおかげで可能性が見えたのだ。ポリマー設計を担当したA.F.は、「配合を細かく考え、何度も試作を行いました。その度に配合設計者であるA.N.さんに『もう少し耐久性が必要』、『耐熱性も向上させなくてはならない』とたくさんのフィードバックをいただきました」と苦笑い。樹脂設計だけでは競合に勝てるほどの特性を発現できなかったというが、A.N.が社外の有識者も交えてアプローチし、競合に勝てる配合を見出してくれたのだという。「顧客対応時に、より耐熱黄変性が高いポリマーが求められていることを知り、添加剤配合処方の見直しを行いました」とA.N.は振り返る。「開発した材料はすでに車載センシングカメラ用レンズ材料として採用されているので、その販売量が継続して伸びていくことはもちろん、高い耐熱性を活かして新たな用途の採用にも期待したい」と新たな思いを語ってくれた。A.F.も、「この触媒を既存工場で使う実績がつくれたので、この触媒を使った新たなアイテムの開発にも期待したい」と夢を膨らませる。
Chapter 04
部門を超えた連携と
チーム力の高さが
オリジナルを生み出す力に
世界初となったS.H.の発見は、プロジェクトメンバー同士の絆を強めるとともに、日本ゼオンだけの高品質なオリジナル製品を生み出すこととなった。「作り手だった私たちだけでなく、販売を担う社員たちの熱量もすごく、そのおかげで高いモチベーションを維持することができた」とメンバーたち。さまざまな部門の人間が自分の得意分野の知識や技術を結集させ、全員で一丸となって取り組むのが日本ゼオンのスタイルなのだ。プロジェクトメンバーのひとりとして活躍したA.N.は、当時育休から戻ったばかりでプライベートでも大変な時期だったというから驚くが、チーム力の高さを活かしてしっかりフォローし合うことで、一人ひとりが自分の得意なことを存分に発揮できる環境があるのだろう。
大きなプロジェクトを経験したメンバーたちは、全員がこの経験を次に活かしたいと語る。また、ここで学んだことを次の世代へと引き継ぐため、後輩たちの指導にも力を入れていく予定だ。知識・技術を伝えるのはもちろんだが、『ひとつのプロジェクトをメンバーと協力して成し遂げたときの喜び』も体感してほしい。その思いをつないでいくことで、これからも“日本ゼオンにしか作れないもの”を生み出し続けていく。
