




― 山本
本日は、社外有識者のご三方にお集まりいただき、「ISO26000時代のCSR 〜社会は企業に何を期待しているか」ということについて、議論を深めていければと存じます。皆様方には、既に、日本ゼオンの会社紹介ビデオとTVCMをご覧いただき、事業の概略については概ねご理解をいただいたものと思っております。
それでは、まず、弊社古河社長より、経営者としてのCSRへ取り組む思いを述べさせていただきます。
― 古河
2003年6月末に社長に就任しましたが、その年の3月に欧州委員会からNBR(ニトリルブタジエンゴム)の取引で競争制限行為があったとのことで呼出がかかり、更に米国でも同様のことが起きました。また、5月頃から、いくつかの化学メーカーで高圧ガス認定保安検査の検査漏れがあり、原子力安全・保安院から、他の社でもないかということで調べてみると、弊社も徳山工場と水島工場で検査漏れがあり、11月に認定保安検査実施者の認定を取消されました。前者については、塩ビの業界には、昭和50年代の不況カルテルという歴史があり、海外でもその延長線上での体質が残っていたのかもしれません。また、後者については、バブルの弾けた93年・94年と2年連続して無配になり、利益目標がうまく達成できないので、固定費の管理に走り過ぎ、工場にお金をかけないというようなことが、認定保安検査の検査漏れを起こしてしまったのではないかと思います。このようなことときっぱり訣別しようということで、今のCSRのような格好いい話ではなく、最初は、徹底的に、法令遵守、コンプライアンスの徹底ということで、当時の専務が先頭に立って、認定保安検査実施者の認定を再取得しました。これらの教訓により、法律を遵守するということはできるようになったと思いますが、それだけでいいのかなと思っているときに、中島茂弁護士のコンプライアンスとCSRの話を聞く機会があり、やはり、更に、社会に貢献できる企業になりたい、CSRに取り組もうという思いに至りました。最初は、地域貢献、工場での夏祭りなどで地域の皆さんに楽しんでもらうというところから、一歩すすめて、品質保証など、事業全体としても、CSRということを進めていきたいと思っています。例えば、省燃費タイヤなどライフサイクルアセスメント(LCA)でどのようにゴムが貢献できているかなど、きちんと出していけるといいのですが、なかなか難しいのですが、そのような方向性を模索しています。今、2020年の社会を見据えて新中期経営計画を作成しておりますが、その大元は、社会に貢献する企業として、CSR基本方針の精神を活かしていきたいということで、最後のつめをしているところです。
― 山本 社長の発言を補足する形で、ここ1年余のゼオンのCSRの取組みについて説明させていただきます。2010年度は、ゼオンのCSRにとって大きな変革の年でした。4月にCSR基本方針・CSR行動指針を策定し、12月にはCSR推進体制の見直しということで全社会議体のあり方を見直し、この1月からCSR会議を頂点とする新しい推進体制になっております。それぞれの節目には、全従業員にCSRを考える機会を持ってもらうため、本社・全事業所・全グループ企業に対し、CSR説明会を2度開催しました。これらを通じて、一人ひとりがCSRについて、「気づき、考え、行動する」ということが浸透するよう、新た推進体制のもとで、本社CSR基本政策委員会と本社・5事業所・10グループ企業に設置されたCSR推進委員会の連携によって、それぞれの部署毎に、分野別・ステークホルダー別のCSR活動について体系図をつくり見える化していくCSRマトリクス活動を展開しています。また、これが「ゼオンのCSRプロジェクト」といえるような全員参加の活動を作り上げようというCSRコアプロジェクト活動を開始したところで、この2つの活動が、今後のゼオンのCSRの基礎になるものと思っております。

― 足達
社長のお話を伺い、襟を正すということでCSRの意味を理解され、「利益ばかりに目が向くことでいろんな無理が生じた、そのアンバランスを元に戻すための取組としてCSRを始めた」ということでしたが、これは日本企業のCSRの入り方の典型例ではないかと思います。
それが間違っているということでは決してないのですが、ISO26000の作成作業ではアプローチの違いを痛感しました。ISO26000の中の定義にも述べられていますが、組織が意思決定や活動を行うと、必ず何らかのインパクトが生じる。この影響を受ける側が、ステークホルダーです。ステークホルダーは、その影響に対して、それを支持することもあれば、「それは困る」という声を上げることもある。この影響と反応のキャッチボールにどう続けていくのかというのが、CSRなのだ考えられています。
日本国内では、経営者の方に「社内外のステークホルダーからどんな声があがっていますか?」とお尋ねして、パッと箇条書きリストが出てくるということは滅多にない。一方、海外で取材すると、その切迫感とか優先度の違いをはっきり感じることがあります。例えば、90年代後半に、シェルが北海油田のリグの海洋投棄で批判を浴びたことがありました。当時の担当部長にインタビューしたことがありますが、「CSRは、当時のシェルにとっては、中長期の話ではなく、明日にも、ガソリンスタンドが焼き討ちに遭うかどうかという切迫した意思決定だったのです」との答えが印象的でした。やはり、かなり感覚が違うという思いがいたしました。
先ほど、「ここまでは日本企業のCSRの入り方の典型例ですね」と申し上げましたが、新中期経営計画の中で、グローバル化を掲げておられるわけで、海外というフィールドで、どのような立居振舞をするのかが、御社の次の課題ではないか思います。今取り組まれているCSRマトリクスとCSRコアプロジェクトの中にも、是非そういう視点を入れていただきたいと思います。
― 秋山 私どもでは、2001年からSRI(社会責任投資)のための企業調査を始めましたが、当時は、CSRという言葉はまだ日本になく、調査では、企業倫理・コンプライアンスに焦点を当てました。日本の企業が、コンプライアンスに取り組み始めたきっかけは、企業不祥事で、特に2001年からの大企業の相次ぐ不祥事により、これは何とかしなければいけないと、多くの企業がコンプライアンスに取り組み始めたのですが、当時は、「コンプラだかテンプラだか知らないけど、そんなもので飯が食えるか」と言われるようなこともあり、コンプライアンスという言葉自体、一般になじみのうすい状況でした。が、取り組みが進むにつれて、徐々に、「これをしてはいけない」、「あれをしてはいけない」ということではなく、前向きに、社会に対してきちんと責任を果たして、それをきちんと説明できることが重要だという流れになり、今のCSRにつながってきています。日本の企業のCSRは、「責任を果たす」というところから始まって、ここ数年で、責任を果たすだけではなく、どのように「社会に貢献する」かという方向に変化してきました。当初、守りから入ったところをどうやって攻めていき、それを企業の競争力につなげていくかという、そのような取り組み方になってきていると思います。
私は、CSRの根幹は企業の理念だと思っています。コンプライアンスにしても、法令を守れば良いというのではなくて、守るべきものは企業の理念です。企業理念は、御社でも「大地の永遠と人類の繁栄に貢献するゼオン」と、まさに社会への貢献、人類への貢献をうたっておられるわけですが、これを守っていこうとすると、法令を守れば良いなどというレベルの話ではなくて、理念を実現するために、どのように社会に貢献をしていくかということになります。CSRは、企業が何を大切にして、何を目指すのかというところをまず固め、それを常日頃より実行しつつ、外に対してきちんと発信していくということであり、昨年、CSR基本方針として、皆にわかりやすく、覚えやすいものを作り、社規体系を見直し、更に、組織体制を整えて取り組みを始められたことは、CSRに取り組む基盤づくりとして非常に重要なことだと思います。
CSRに取り組むに当たっては、2つの重要なポイントがあって、一つは、経営として、会社として、どの分野で、何に重点を置いて、どういう取組みをしていくのかということ、もう一つは、社内において、それをきちんと伝え、社員の皆さんが同じベクトルをもって日々の仕事ができるようにすること、この二つを同時にやっていかなければいけないと思います。特に、取り組みを実践する社内の従業員との意識の共有がなければ、いくら立派なプランを作ったとしても、絵に描いたもちになってしまいます。
― 藤井 私からは2つのことを申し上げたいと思います。一つは、CSRに取り組む価値というものを考えるときには、日本の中で良かれとされていることと、日本の外で良かれとされていることには、どうしても差があり、その差分に気づくということが非常に重要なことではないかと思っています。古河社長のご発言にあった不況カルテルは、日本の古き良き時代のもので、かつて日本独特のものとして社会的に是として存在していました。しかしながら、欧米では、歴史的にそういうものは存在せず、決して日本がいい、悪いという問題ではなく、何が是とされているかということについての違いがあったわけです。もう一つ例をあげると、日本のある企業で、身障者雇用で、身障者だけの工場で働いてもらっているのを自分たちの社会的責任の例として、海外のメディアに紹介したところ、欧米人の人権感覚から見れば、身障者の方だけを集めて作業場を作るというのは、それは隔離であり、本来健常者と身障者が一緒に混ざって働くということを目指すべきだということで、危うく大問題になりかけました。最終的には事なきをえましたが、今われわれが正しいことと思っていることが、海外では必ずしもそうでないということが往々に起こりえます。会社がグローバルに展開していくときには、それが一つの大きなアキレス腱になり、自分の社内に異文化を抱え込む、そういう価値観の相違というものが、組織に何がしかの問題を発生させることが起こりうると思います。
2点めですが、CSR基本方針の説明の中で、企業活動を通じて、社会の持続的発展と地球環境に貢献するというフレーズがありましたが、企業活動を通じてというのは、一体何なのかと考えると、2つあります。一つは、製品サービスを通じて、社会の持続的発展なり、環境に貢献すること。もう一つは、その製品を作り出すプロセスを変えることによって作るものが同じでも、社会的に貢献すること。前者の取り組みが不十分であれば、すぐにマーケットからシグナルがあり、お客さまを失うということでわかりやすいのですが、後者はわかりにくく、即座に何か問題が発生するわけではないので、先ほど秋山さんが言われた理念というものが重要になってくると思います。理念がないとフィードバックがなかなか来ないので、軸がどんどんぶれていく可能性が常にあります。物を作り出すプロセスのように外からすぐに見えないような部分にも特に注力いただくというのが、重要ではないかと思います。

― 山本 まず、足達さんから、ゼオンのCSRは日本企業として典型的な入り方というご指摘とともに、ISO26000の策定過程でのご経験を語っていただきました。ISO26000の発行は、認証のいらないガイドライン規格とはいえ、1つの国際的な物差しが出来たということは、企業活動に大きな影響があると思います。これに対して、日本の企業としてどのように対応したらよいのかというような点にご示唆がありましたら、お願いしたいと思います。
― 足達
まず一つには影響(インパクト)の認識というものをどこまでできるかということがあると思います。日本企業には、「不都合な真実」ではないですけれど、自らが生み出す悪影響について社内で議論するということ自体が憚られる傾向があります。例えば、化学企業において、その原材料である化石燃料を枯渇させるとか、化石燃料の価格を今の3倍、4倍にしてしまうという手の話しは、経営計画を作るときならともかく、普通は議論がしにくいということはないでしょうか。CO2 削減の問題もそうだと思います。まず、こうした認識を、社内で平気で口にできる風土になれるのかどうかということは重要だと思っております。ちょっと脱線になりますが、御社の塩ビ事業の撤退には、どんな議論があったのかという点には大変関心があり、単に経済性の問題だけだったのか、今後の10年、20年という社会との関係の中で判断をされたのか、そういうところを語っていただくと、御社に対する見方も変わってくるんではないかと思います。
2つめは、日本企業の場合、ステークホルダーの声というものを意識して、なるべくきめ細かく拾っていく、聞き耳を立てていくしかないと思います。日本国内には声高に声を上げるグループやステークホルダーは少ない。しかし、マーケットは、それを刻一刻きちんと見ていますので、これを感知する能力が必要になると思います。
その上で、3つめは、先ほどの影響とステークホルダーの声を掛け合わせると、事業の選択ということになるではないかと思います。日本では、企業が存在していること、あるいは売り上げを上げているということは、そのビジネスに社会的価値がある、社会に貢献しているということの証しであると考える方が多い。事業の取組分野とか、製品のポートフォリオに貴賎はなく、目の前にあることをきちんと成し遂げていく、あるいは品質を上げていくことがCSRだという考え方です。ただ、私は若干違う思いを持っています。50年後の世の中とか地球とかがどうなっているかということに思いを馳せて、今この仕事、この製品作りをやるべきか、止めるべきかということを、常に社内でフィードバックしていける組織体を作る必要があります。それが実現したとき初めて、社会の持続可能性と同時に企業の持続可能性が保証されるのではないかと思っています。
― 山本 影響の認識がどこまでできるか、ステークホルダーの発言に聞く耳を持てるか、中長期的に何を世の中に出していけばいいのかとう観点で事業全体を進められるかという3点のご指摘でした。我々もISO26000のポイントの一つである幅広いステークホルダーとの対話を通じた信頼の確保ということで、経団連の企業行動憲章の改正もそこが第1の改正点であったように、これまで必ずしも十分でなかったと認識していますし、これからしっかりやっていかなければと思っています。事業の選択という問題については、日本の企業は、例えば、弊社の新3ヶ年計画も、2020年のありたい姿というイメージを描いて、この3ヶ年どう活動すべきかを考えており、ある程度、出来ているのではないかと思います。古河社長、いかがでしょうか?
― 古河 まあ、おっしゃるとおりのところがありますよ。ISO26000だけでなく、RoHS指令、REACH規制、そしてIFRSなど海外からいろんな規制が入ってきて、影響の認識ということでは大変な時代になってきたとつくづく思います(笑)ただ、事業自体は、20年先、30年先まで考えながら選択をしていかなければ大変なことになるという感覚は持っているんですけど、影響の認識はきちんとできていないと思います。今回、シンガポールに工場を出すことになりましたが、現地の従業員がどこの国の人になり、どのような文化でというところまでの認識はまだまだないと思います。このようなことをきちんとやらないといけないとなると、これから企業経営は本当に大変です。
― 藤井 ISO26000については、「こんなことまで書いてあるんだ」というところをきちんと認識することが重要ではないかと思います。日本企業がここまで強くなったことの大きな理由の一つは、日本の消費者の品質に対する飽くなき拘りがあり、少しでも傷があると買ってもらえないという消費者の厳しさが日本企業を育てたというのが、多くの経営学者が語っていますが、他方で、日本の消費者は、足達さんの指摘にあるように、会社にいろんな意味での文句を言ってくることはあまりない。環境問題はまた別でしょうが、それ以外のところ、例えば、差別の問題では、日本ではあまり考えられませんけど、欧米では、会社に対して頻繁に提示をされ、不買運動が起こります。日本の消費者は、社会的な面については寛容で、品質については厳しいですから、日本の企業は品質にものすごく配慮するようになったけれども、社会的なことについては寛容なので、逆に、社会的なところは、あまり考えなくて済んできたのだと思います。ある意味で、長期的には、日本企業は欧米企業にハンディキャップを負っていると言えるのかもしれません。ISO26000には、日本の会社が何でこんなことを書いたんだろうと思うことについて、こんなことまで考えなきゃいけないのはなぜなんだろうというふうに、文化の違いを考えながら読んでいくのに良いのではないかと思います。
― 古河 そうですね。日本の企業は、グローバルな視点からの人権や貧困問題に対する対応という視点そのものが欠けているということがあって、今回、企業行動憲章も、その点が手直しされましたが、ゼオンのCSR行動指針を見ても、そういうところは、足りないところがあり、見直していかなければいけないところかと思います。
― 武上 ゼオンのCSR行動指針をあらためてみますと、要は「児童の労働力を使うような製品を買うな」ということを一応書いてありますが、あんまり大きくは書いていない。ゼオンの指針もISO26000の一部がここに反映されているのかと思いますが、その書き方などそのような項目を正面から受け止めて意識して取り組んでいかなければと感じました。

― 山本
ISO26000はこれくらいにして、2つめのテーマとして、社会への貢献ということが、秋山さん、藤井さんの発言にありましたが、「本業でどのように貢献していくか」ということについて、環境問題もからめ、議論したいと思います。
まず、武上取締役の方から、本業における環境への貢献ということで、ゼオンがどう社会に貢献しているのかを簡単に説明させていただきます。
― 武上 ほとんど製品の宣伝になってしまいますが、まず、本業による社会及び環境への貢献としては、やはりオリジナルな「人のマネをしない、人がマネのできない独創的な技術」を活用し、世の中のニーズにあった製品をきちんと提供していくことが本筋と思っております。その代表的な製品としては、(1)低燃費タイヤ用のゴム、(2)蛋白アレルギーの少ない手袋用ラテックス、(3)コピーの省エネに寄与する重合法トナー「ゼオグラビュール®」、(4)カメラ付き携帯電話レンズ等の光学特性に優れたシクロオレフィンポリマーの「ZEONOR®」「ZEONEX®」、(5)液晶テレビの更なる薄型化、省エネ化に貢献する、溶剤を使用しない溶融押し出し法での光学フィルム製法による「ゼオノアフィルム®」、(6)オゾン層保護・地球温暖化防止に貢献する、米国オゾン層保護賞を受賞した次世代フッ素系洗浄剤「ゼオローラ®」などがあります。
今お話ししたような環境保全に貢献する数々の環境貢献製品を、これまで培ってきたレスポンシブル・ケア活動により、環境に配慮した、安定・安全な生産を通じて社会に提供しています。さきほどプロセスにおける社会への貢献ということが出ましたが、生産活動に伴うエネルギー原単位は、2010年度で67.8と、1990年に比べ、32%削減しており、化学業界の自主行動計画の20%削減を大きく上回っております。また、これをCO2 排出量ということで計算しますと、2010年度で581千トンと、1990年度(637千トン)の8.8%削減となっており、京都議定書の2008 〜 2012年度6%削減を達成しています。
― 山本 先ほど、藤井さんから、企業活動を通じての貢献という場合、2つあるという話が出ました。製品サービスそのものとともに、作り出すプロセスについても、先ほど説明のあった重合法トナーは、今までの粉砕法とはまったく違うもので、その意味では、プロセスの方も、市場性ということを含めて、かなりできているんじゃないかと思います。ただ残念なのは、やはり、ゼオンの製品は素材、材料、中間製品なので、その製品が本当に世の中に貢献しているのがはっきり見えないところです。そういうところが何とかできないかということで、冒頭に社長がライフサイクルアセスメントについて少し触れていましたが...
― 古河 化学産業で合成していろんなものを作るというのは、非常に特徴のあるものができます。例えば、航空機タイヤは、天然ゴムの比率が高く、ほとんどもう天然ゴムで出来ています。耐久性にバランスが取れているのが天然ゴムなんです。先ほど武上の説明にあったように、燃費だけを考えて、どんどん走れるようにしようとするとどんどん走れるものはできるんです。だけど、最後、止まんなきゃいけないというときに止まらなくなるので、ある程度それを犠牲にしながら、特徴のあるゴムを作る。全く逆のところにあるのが、F1レースのタイヤに使うゴムで、これは燃費なんか関係なく、高速スピードを出して走るんで、燃費とは関係なく、速く走っても滑らないゴムを作ってくれというタイヤメーカーさんのご依頼がある。何でも特徴があるものはできるんです。そういうところで、お客さまからのご要請の中で、何をやっていくのが本当に社会に貢献あるかということで言うと、やはり生産から消費、更には廃棄までのライフサイクル全体で、一番環境に優しいものを作るというのが、われわれの務めと思っています。そのような分析がきちんと数字で出せるようになるといいのですが、これがなかなか難しいのが悩みです。

― 山本
さて、3つめのテーマとして、先ほど議論のありましたグローバル化の中でCSRをどう考えるのかということを取り上げたいと思います。冒頭社長の方から少し触れた新中期経営計画については、現段階では基本的考え方について公表しております。
そのベースとなるところは企業理念とCSR基本方針であり、この2つを変わらないもの、変えてはいけないものとして、このゼオングループの役員・従業員の全員が常に肝に銘じ、CSRをレベルアップしていきたいと思っております。他方、CSR行動指針は時代の要請に合わせてどんどん変えていきながら、グローバルに展開していきたいと思っております。それでは、グローバル化との関係で、CSRをどう考えるのかということについて、先ほど藤井さんの方からお話がありましたが、いかがでしょうか?
― 藤井
グローバル化するときの一つの杖の役割を果たすのがCSRではないかと思っております。海外の会社、しかもある程度大きい会社を買うと何が起こるかというと、共通した現象として、会社の理念などについてどちらがどちらを買ったのかわからなくなるという経験をされている会社が少なからずあります。欧米人は、世界観を語ることを得意とし、日本の会社は、改善という根強いポリシーで、半歩先をどうするのかという議論、これではなかなかかみ合いません。特に全体のポリシーをどうするのかということについて、日本にある本社がコントロールするのが非常に難しいという状況が発生しかねない。どこまで理念というものを強く持っているのかということが問われることになります。先日、古河社長の今年の年頭挨拶を拝読しましたが、社長の挨拶で、あそこまで分かりやすいものは初めてです。一つ一つの言葉がわかりやすく、訴えかける力がある。欧米人は、言葉で動く人たちですので、これからグローバルに価値観を語っていくときのベースとして、例えば、人権とは何かとか、世界はどうあるべきかとか、貧困の問題というのはどうあるべきかということを語るということはどうしても避けられないということなんじゃないかと思います。
もう一つは、日本の企業の良さを失うということは、これは自殺行為ですので、決してすべきじゃないと思うのですが、2020年のありたい姿を拝見していて、「お客さまの夢と快適な社会の実現に貢献する」というフレーズがありますが、欧米人的な発想だと、「お客さまの夢というのは、一体何なのか」と。それは、まさに日本の「お客さまにサーブをする」という発想から来るわけですけどもGoogleなど欧米企業というのは、彼らはまず自分の夢を語るわけです。自分の夢を実現するためにやっているのであって、お客さまの夢を実現するためにいう言い方はしません。もちろんお客さまに役立っているんですけども、彼らは「自分の夢はこうなんだ」ということを語る人たちであるということであり、海外に行くと、「ゼオンの夢は何か」ということが問われるということであり、そのときにすべての人が「なるほど」と言うような言葉で語っていくということは非常に重要ではないかと思います。
― 秋山 海外に出ていくと、特に、自らの軸となるものがすごく重要で、先ほども申しましたが、それが企業理念だと思います。理念が、どれだけ一人一人の中に落とし込まれているかが重要です。「海外」と一言でいいますが、一つの「海外」というものはないのであって、アメリカ、あるいはヨーロッパでも国、地域ごとに違うし、アジアでも、それぞれ違う、そういう、一つ一つの国あるいは地域によって違うんだということを、海外展開する場合は認識しなければいけません。その違うものをどう束ねていくかというと、中心になるのが理念です。軸となる理念は、どの国、地域であろうと変えてはいけないのですが、それをどう説明して伝えていくかというところでは、現地の人がそれを聞いたときにどう感じるかという部分がすごく重要になります。グローバル展開といいますが、グローバルでの取り組みというのは、グローバルを構成するそれぞれの現地であるローカルへの取り組み(グローカル)だと思います。理念を現地に浸透させるにおいては、そこで働く人たち一人一人が理解できるようなやり方で、もちろん軸となる理念の精神については説明を尽くして徹底するわけですが、同時に、現地の人たちが、「理念を、自分たちの仕事に落とし込むと、具体的にはどういうことなのか」ということを考える機会をつくることが、非常に重要だと思います。一人一人が自分の仕事と照らし合わせて、理念の実現のためには、どういう仕事をしたらいいのか、どういう製品をつくればいいのか、どういうプロセスで仕事をしていけばいいのかを、それぞれ、考えることが重要です。また、海外では、自社工場はもちろん重要ですが、取引先、サプライチェーンまで、きちんと取り組まないと大きなリスクを抱える可能性があるので、その部分まで注意をしていかなければならないと思います。
― 古河 そうですね。理念を一人一人の仕事まで落とし込むということが大事だということで、一人ひとりがCSRを自覚し、行動するという基本方針第3項目がまさにそれを表しています。CSRマトリクスの説明がありましたが、16の現場のCSR推進委員会が議論して、基本政策委員会に上がってきたものを再度議論してまとめるという形で、日本ゼオンのCSR活動の骨格を作っていきたいと思っています。
― 足達 今の問題で、ゼオンの夢を語るといったときに、その理念の表現方法として、製品サービスに拘りを持たれるということが重要かと思います。御社の事業は、要は、ナフサの副生成物からスタートし、それをどのように有効利用できるのかを徹底的に追求されてきた歴史のように見えるわけです。いわばリサイクルですね。これを遺伝子として、その精神を継承して、この技術を社会で開かせるんだという種が、いまも社内にあって、それを社外にもきちんとプレゼンテーションされているかがポイントです。これが出来ていれば、自らの夢を語る、理念を語られる際の、非常にシンボリックなものになると思います。
― 古河
おっしゃられるとおり、当社はC5を徹底的に使うようにしているんですけど、当初はそういう高尚な考えはなく、船で運んで、行ったり来たりしていると、お金ばっかりかかるので、何とかみんな使えるようにできないかというのがその原点の発想で、結果的に、差別化が今はできているということかと思います。C5のイソプレンは、15%しか取れないので、せめてもう少し他で使おうじゃないかということで、いろんなことをやってみたら、結果的に香水が出てきたとかですね。
― 足達 そのようなストーリーをご紹介いただくと、御社のCSRが、非常にわかりやすくなると思います。

― 山本 多岐にわたるテーマについて議論がありましたが、最後に、ゼオンに対してお一方ずつ、アドバイスがありましたら、お願いしたいと思います。その前に、ゼオンでは社外の方とCSRについてこのような形で意見交換をさせていただくのは、初めての試みであり、古河社長から感想がありましたら、お願いいたします。
― 古河 ゼオンは、これまで大してM&Aをやっていないのですが、最初米国に出て行ったときは、最初はうまくいっていたのが、その後、スカウトした社長とは、品質管理やレイオフなど文化の違いで大変苦労しました。やはり日本人のような農耕民族と狩猟民族は違うんでしょうね。いや、グローバル展開というのは、本当に、これは大変だなと思います。今度、シンガポールに拠点を作りますが、シンガポーリアン、そこへまたインドネシアの人がいっぱい来て、バングラデシュからもとなると、ますます大変だなと思いましたけど。そもそも当社の企業理念「大地の永遠」なんていうのはわかりますかね? もともとは、塩化ビニールのときの話で、カーバイドは土から掘ってきて、石灰岩を持ってきて、電気で焼いて、それに水をかけてアセチレンを作って、塩素と化合して、塩化ビニールを作る。だから「大地」ということになっている。これは、アメリカ人はなかなかわかっていないんだよな(笑)。
― 秋山 そのストーリーを皆さんに話されていますか。アメリカ人は、伝えても分からないのでしょうか。日本人もそうですが、アメリカ人も、結構そのような話は好きだと思います。会社の理念や歴史、つまり、今の自分の仕事の背景にあるストーリー・ビハインドというものですが、そのようなストーリーがあるなら、伝えるべきだと思います。私も、今のお話を伺って、「そういうことなのか」と思いましたが、それを知っているのと知らないのとでは、最初の会社紹介のビデオから受ける印象も、感じ方が違うのではないかと思います。
― 古河 それはまだ話していないからですね。なるほど、それでは、今度やってみたいと思います。
― 藤井 どこの会社もグローバルにとおっしゃっいますが、グローバルカンパニーというのを経営するのは人なので、結局は、どこまで自分たち一人一人がグローバルになれるかということ以外のものではないのです。グローバルパーソンというと、あまりに英語っぽくなりますけども、結局は、そういう人の集合体になれるかどうかということです。日本の美学は捨ててはいけないのに、すべて捨ててしまうか、もしくは、それに固執するかという両極端になってしまうようなところがあります。先ほどの児童労働などについてのものの言い方一つにしても、どういう形で言うのかというと、それは、自分の腑に落ちた上でということなりますが、何を腑に落とすのかというのは、たぶん一人一人の永遠の課題で、そこに尽きるような気がします。
― 秋山 会社の経営も、CSRも、不易流行だと思っています。変わらないものと変わるべきもの。変わらないものは理念ですが、理念を軸として守ることについては、いくらでも頑固になっていいと思います。それ以外のところは、特に海外に出ていくに当たっては、現地の状況に応じて変わるべきものだと思います。変えるためには、現地をきちんと知ることが必要です。自分たちが出ていくんだから、そこの人たちを知って、そこの土地を知って、そこの人々の考え方を知るということ。対話を通して、理念の背景にある、先ほどのストーリーのような話を含めて、きちんとコミュニケートして、共有する部分は共有するということが、重要だと思います。で、もう一つは、仕事に対する誇りです。誇りは、理念自体が誇りであるという部分もありますが、さきほど伺ったいろいろな製品の話などは、社外に向けてと同様、社内でもしっかり共有していくべきだと思います。製品を作っている人たちは知っていても、例えば、本社で管理の仕事をしている人たちは、その製品がどういうかたちで社会の役に立っているかのすべては知らないかもしれない。それは非常にもったいないし、それを知るということが仕事や会社への誇りにつながることなので、社員にきちんと知らせる、CSRの取り組み自体についての共有もそうですが、そういった従業員との共有を是非やっていっていただければと思います。
― 足達
ほぼ秋山さんの話と重なりますが、理念を持った上で、やはり多弁であっていただきたい。あえて、多弁であれと私はお願いしたいと思います。多くの日本企業の課題は、「社会に貢献したい」ということを胸を張って言ったり、「こういうところで貢献している」ということを堂々と説明したりすることです。ときには、「皆さんの声を聞いたけれど、うちの会社はこういう意見だ」と、あえて反論することも必要になる。こうした強さ、多弁さには欧米企業に一日の長があります。正直、彼らにはスタンドプレーだとか、言っていることとやっていることがこんなに違うのにと思わされることが多々あるのですが、ただグローバルに出ていったときは、彼らとの競争ですから、日本企業が目指すべきは、コストと手間を掛けてでも、多弁になっていく方向だと思います。そのためのフィールドとして、CSRというのは、非常に格好な、かつ重要なフィールドであるということを感じています。
― 山本 本日は長時間にわたりありがとうございました。昨年は、CSR基本方針・行動指針の制定を踏まえ、社内若手従業員との意見交換をしましたが、今年は、社外の有識者の皆さんとCSRについて考えてみました。社会の期待・要請に応えるためには、社外からの声に真剣に耳を傾ける必要があり、本日の会合が、社内でのCSRの議論の活性化につながることを期待して、終わりたいと思います。